江の川(ごうのかわ)


 「かわ」を表す漢字として、「川」、「河」、「江」がある。

 中国では、もともと「河」は黄河を、「江」は揚子江を意味する固有名詞だったが、

 いつの間にか普通名詞化したらしい。

 日本での表記は「川」に統一されているが、中国の「川」は溝程度の流れを表すようだ。

 もっとも、大陸の大河と大きさを比べれば、日本の川は小川程度のものかもしれない。


 世界の大河に目を向けると、ナイル、インダス、ガンジス、メコン、メナム、アムールなどがあるが、

 それらの名前の意味は、それぞれの母国語で「かわ」を意味する。

 すなわち、ナイル川やインダス川という単語は、かわ川という二重表現になっている。


 世界の大河に匹敵するわけではないが、同じような表記の河川が日本にもある。江の川である。

 「江」は、中国ではもちろん日本でも大河の意味であり、さしずめ大河の川といったところか。

 中国地方の川の中では、長さ、流域面積ともに最大であり、中国太郎と呼ばれている。

 名の由来を調べてみても、定説は見当たらないが、広島県では可愛川(えのかわ)と呼ばれている。

 ひょっとしたら、大河の川というわけではなく、島根県の流域で、単にえのかわの「え」に「江」を当て、

 だんだん音読みされるようになったのかもしれない。



 備北の中心都市三次は、古くから陰陽連絡路の要衝であり、道路や鉄道が多方面から乗り入れているが、

 河川についても、可愛川、馬洗川、西城川といった同規模に大きい三川が、四方から流れてきてここに集結している。 

 三次で合流した三川は江の川となり、先行河川として中国山地を削り抜け、

 島根県に入ると大きく曲がりくねって江津市から日本海に注いでいる。 


 また、上流の三川は、備北、芸北の降水を広く集めていることから、

 三次を中心とした広島県に属する流域が、島根県に属する流域の倍の面積を占めており、

 江の川水系は、まるで三次を核とした神経細胞のような格好をしている。