姫川 (ひめかわ)


 名前に似合わず、どうやらこれも暴れ川で、古来より氾濫を繰り返してきたらしい。

 川の主流はフォッサマグナの西辺、糸魚川静岡構造線に沿っており、

 断層周辺の地盤はもろく、大雨とともに大量の土砂が流出し、濁流となって川底や河岸を洗い削る。

 気性の激しい、暴れ姫であるらしい。


 伝説によると、その姫とは奴奈川姫(沼河比売)のことで、

 出雲大社の主祭神、大国主命の妻であり、諏訪大社の主祭神、建御名方神の母とのことだ。

 偉大な姫でもある。


 水源は白馬の親海湿原の湧水で、昔は信濃川水系の青木湖とつながっていたらしい。

 五竜岳から東へ伸びる遠見尾根が、姫川水系と信濃川水系の分水嶺となっている。



 二十数年前、蓮華温泉から朝日岳、雪倉岳、白馬岳を縦走し、台風接近のため白馬大雪渓を下った。

 今思えば、縦走路の西斜面は黒部川となり、東斜面は姫川となる越中越後の国境だった。

 山頂直下の山荘で大雪渓なる酒を飲んだが、大雪渓は融けて流れて姫川となるのであった。


 
 まだ暑い夏の終わり、小谷温泉から雨飾山に上った。

 高曇りの雨飾山頂から、北アルプスなどの山々とともに、日本海に流れる姫川が眺められた。

 下り、荒菅沢出会で一服。あまりの暑さに沢水をジャブジャブ頭から被った。